民主主義に逆行した文化勲章

文化勲章の受賞者が発表された。受賞者には年間350万円の終身年金が支給される。文化、芸術、科学技術等に功績を残したものの中から選ばれるといっても、この終身年金額をみれば、平均的なサラリーマンが40年間働いて得る年金より多いのである。

受賞者は皆名だたる人物とならば普段の所得も一般人に比べ遥かに多いと推定できる。高額所得者ほど年金支給額が高いという矛盾だらけの現行制度に加え、さらに上乗せされる文化勲章の年金額、これが本当の民主主義国家の規定としてよいものか改めて問う。

またノーベル賞受賞者が必然的に文化勲章の対象者というのも理解できない。ノーベル賞は、スエーデン政府とノルウエーのある機関で選考される謂わば他国の賞である。文化勲章は我が国独自の賞であるにもかかわらず、横流しとはこれまた腑に落ちない仕組みを作ったものである。

外国に認められれば我が国も認めるといった風見鶏のような島国体質は、早急に脱皮すべきものである。誠に嘆かわしいのひと言である。

文化勲章は、文化、芸術、科学技術といった分野に絞った狭義の世界である。例えば一生を猫の額ほどの田畑を耕し、汗水流して子供たちを育て上げてきた人間はどう評価されるのか、こうした人間こそ国家として何らかの形で表彰すべきであって、これこそ民主主義の鉄則である。

映画作りで成功した、というだけで勲章の対象になる、今すぐに役に立たない基礎的な研究成果が勲章の対象とする、長年絵画を描いてきた画家を対象として選考する。

生きるために絵を描くどころではない、研究する暇などない、映画などで飯を食うゆとりはない、こうした人間たちは日々重労働に耐え腰は曲がりそして老後を迎えていく、何一つ楽しみはなく、子供たちを育てるために一生を捧げてきた人間たち、彼らこそ国家として勲章を与えるのに相応しい。

こうした真に生きる人間を無視したかのように、昭和十二年、時の内閣総理大臣広田弘毅の発案で生まれた。それから七十数年連綿と続く文化勲章、選考も文化庁文化審議会に席を置き、文科省が選考するというものである。

七十数年前の日本とは時代が変わっている、戦後民主国家として民主主義を貫いてきた我が国にあって、正に逆行した文化勲章の存在である。

2012.11


トップページへ